人間の皮をかぶった人間が皮を脱ごうとして消え失せた
価値という無形のものを追いながらこんなに形が増えてしまった
等量のインクで書かれた二と十を異ならしめている、これが意味
否みがたい実体として標識の支柱が並んでいる道の脇
青らんで秋の陽は差し、あれも、これも、ああもう在るってことにしとこう
角を曲がる
これが幾つ目かわからない
そこに壁があり 外と
間とがあるから
区切ることは生活の基本だ
囲むことも
その中でなら
酒に漬けられた桔梗の根のような
人らしい行いをしてい ....
カーテンを引くように目を閉じたとて中の自分が見えてくるだけ
あまりにも人と世界が多すぎてすうっと消したくなることもある
どの街も夜景だけなら美しく見えるだろうねそれだけのこと
この世界でのルールでは人格は体一個に一人だという
失った生身の影を探しつつ人格データのさまよう未来
死は作品ではないはずだ文字列で存在をかき消してから死ね
本体はここではなくて文字列の間にあると言い切れるなら
ゆるゆると逃げ続けよう蛞蝓の虹を残して進む速さで
「人類の旗」なるものは未だない つまりそういうことなんだろう
それぞれが秘密を持てるがその代わり「ここまで言わなきゃわかんないのか」
たいていは「私でなくてもいい」のだが私でなくなることができない
それぞれが個体の内に分かたれて独りであれるという僥倖を
「孤独死」とまるで孤独でない生や死があるように言われましても
「嫌がらせとして長生きしてやる」と考えてもいい。参考までに。
千キロの移動をしてもこの体からは一歩も出られていない
個体というファイルに無理に綴じられた一貫性のない私たち
眠りたいわけではないがこの脳が眠たがるから眠ってやるか
縛られていると落ち着く人もいてたやすく「解放」などと言えない
「監視されている」と「見守られている」の重なるあたりに移り住む人
人間と人間が争いあって蠅と薊と鼠が勝った
視界という壁に一箇所穴があり、つまり私の身体である
手に提げたビニール袋がどちらかといえば私を連れて帰った
太陽系宇宙の中の一点の豆腐屋で厚揚げ二枚買う
同じ穴から拔け出てもその先の世界がひとりひとり違った
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